第57章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎
「炎の呼吸・弍ノ型」
下段からぐるっと時計回りに色づく紅蓮の輪が七瀬と朝霧の間を照らしていく。
「—— 昇り炎天」
「はあっ、あつ……」
完全に左腕を再生しきれていない朝霧だが、それでもまだ動ける気力は充分にある。
右足で地を蹴り、後方に飛び退いた所でようやく左腕が再生した。
「腕だけじゃなくて、髪まで……!!あんたほんっと腹が立つ!」
間一髪の所で避けはしたが、前髪の一部分を七瀬の炎刀に焼かれてしまった彼女は更に激昂する。
「いいわ。あんたの好きな星に因んで、良い物見せてあげる」
朝霧は後ろ髪を縛っている組紐をぱらっと解き、腰まである栗色の髪をふわりとなびかせた。
「血鬼術———蛇衣紆曲(じゃいうきょく)」
「えっ………」
絹糸のような繊細さを持つ彼女の美しい髪が、みるみる内にうねりを増して姿を変えていく。この5秒程のわずかな時間で、朝霧の頭髪は全て爬虫類の動物に変化をした。
「どう? あんたがこないだ炎柱達3人に話してた神話を再現してあげたわよ。異国の言葉で確か……メドゥ何とか?だったかしら」
「あなた、あの時見てたの??」
「ええ、そうよ。私の右目は探知や探索に使用出来るの。しっかり見てたわ。あんたが炎柱と仲良くしている所までね」
腕組みしながら、仁王立ちをしている朝霧の髪の毛はその一本一本が蛇になっていた。
「あ、因みにこの子達はみんな蠱毒を持ってるわよ。いくらあんたが嫉妬に慣れてるからと言って、許容量があるでしょ。それを超えたら……どうなるのかしらね?」
髪の毛が蛇でも、綺麗な顔立ちはそのままだ。
「と言う事で、早速試してあげる。あんた達行って来て」
ブチっと20本程の蛇をちぎった朝霧は、それらを右掌の上に乗せ、ふう……と息を吹きかける。
「血鬼術 ———— 蛇毒の息吹(じゃどくのいぶき)」
蛇達が一斉に放たれた途端、七瀬めがけて1匹1匹が鋭い牙を見せながら襲い掛かった。