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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第57章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎



ザン————

「———!!」

ハッと朝霧が気がついた時、自分の左耳から左腕まで火傷したのではないか。そんな熱さが体を通り抜ける。

そして先程と同じように、ゴト……と彼女の体の一部分が地面に転がった。


「炎柱……何で……あんた動けるの?」

「動ける?君は何故そんな事を聞くんだ?」


女の鬼は体を切り削がれた事よりも、杏寿郎が難なく動ける事に驚いていた。
蠱毒開眼は受けた者の心を抉る血鬼術である。

そしてそれより前に七瀬にかけた術— 嫉心の蠱毒(しっしんのこどく)
これは対象者と対象者の愛する者を繋ぐ媒介(ばいかい)の術だ。

七瀬の杏寿郎に対する愛情が蠱毒となり、炎柱を苦しめるはず……なのに。


目の前の男は全く変化がないじゃないか。


「どうして?何であんたに蠱毒が効かないの??」

「ああ、七瀬の愛情が毒となり、俺に影響があると言うあれか?」

杏寿郎は血液が付着した日輪刀を右下に振り、中段に構える。


「そうよ!あんた今頃苦しんでいる筈なのに…どうして?」

切られた左腕を押さえながらゆっくりと再生していく朝霧。しかし、先程七瀬に裂かれた時よりその速度が幾分か遅いような気がする。


“これが柱の呼吸って事?…”
ギリっと歯を噛み締める彼女の口元から、いつかと同じように両端からじわりと流れる赤い血液。牙で口の中が再び切れたからだ。


「七瀬の愛情もそうではない感情も、理由がどうであれ全て俺に向けられる思いだ。大切にしている恋人がくれるそれらを何故”毒”と捉えなければならない?」

「何ですって……?」

嫉妬をありのまま受け止める人間なんて。そんなヤツがいたのか。
朝霧が鬼になって150年。これまで殺して来た人間は男も女も全てが嫉妬に苦しみ、のたうち回った後に命を亡くしていた。

なのに目の前に立っている男は悠然と、そして努めて静かに自分を見つめている。
その場に佇む空気は夏の終わりの気温と混ざって、生暖かいと言うのにぞくっと寒気がした。

「愛情と対極にある物は嫌悪や嫉妬。そんな話を聞いた事があるが……少し違うように感じる」

「はあ?何それ?」


「愛情と対極に存在している物— それは恐らく”無関心” 反応しないし、反応もされない。俺はそう思うが」



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