第57章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎
ポン、と私の頭に大きな右手が乗せられた。
「七瀬、まだ5日あるぞ」
「後5日しかないんですよ……?」
少し不安げな表情をしながら顔を上げたせいか、彼が私の頭から左頬に掌を滑らせてふわっと包んでくれる。
「後5日”も”ある。きっと手立ては見つかる」
「大丈夫だ」
私の瞳を真っ直ぐに見つめてくれる日輪の双眸には、迷いなんて1つも感じられない。
「はい、ありがとうございます」
「うむ!」
柔らかく撫でてくれた杏寿郎さんの掌に自分の左手を重ね、目を閉じる。5秒程そうした後、目を開けた。
「血鬼術を解く術(すべ)はまだわかりませんけど、杏寿郎さんとの連携技は思いつきましたよ。引き続き稽古をお願い出来ますか?」
「ほう、面白そうだな」
「せっかく同じ呼吸を使うので、何か一緒に出来たら良いなあって以前から思ってたんです」
「では早速取り組んでみよう」
「壱ノ型・改 不知火・連」「弐ノ型・昇り炎天」……
将門塚の周りをぐるっと囲むように配置されている松明。杏寿郎さんが炎の呼吸を使用して、1つずつ明かりを灯していく。
左右に一つずつ薙ぐ炎、時計回りに弧を描く炎。それから参ノ型、肆ノ型と続き——
「伍ノ型・炎虎」「伍ノ型・改 炎虎・番(つがい)」
「陸ノ型 ・心炎突輪」 「陸ノ型・改 心炎突輪・散(さん)」
大きな紅蓮の虎、双頭の紅蓮の虎、一直線に向かう刺突、五つの刺突。漆ノ型、捌ノ型とその後も続き、最後はこの型で締める。
「玖ノ型・奥義 —— 煉獄」
暗い夜でも夜明けが来たかのような明るさの炎の龍。12個目の松明に明かりを灯すと、それらが時刻を表す時計のようにも見えた。
日輪刀を一振りすると、静かに納刀の所作をした炎柱は、姿勢を正して将門塚の入り口の正面に立ち、一礼をする。
ふう、と1つ深呼吸をした彼は私達3人の元にやって来て笑顔を見せた。
「これで準備は整った。石室内に向かうとしよう」
—— いよいよだ。