第57章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎
「む、何故だ?」
「はい。私は女なのでやっぱり……奇稲田姫が良いです。もちろん須佐之男命も好きですけど…」
「そうか……では姫君。お手を」
「え……?」
彼の口元が弧を描いた—— かと思うと、私の左手の甲に杏寿郎さんの唇が優しく当たる。
夕方の時間が訪れると、丁度蠍の焼き印が浮かび上がってくる場所である。
「まじないだ。上手く事が運ぶように」
「ありがとうございます……必ずやり遂げます」
——— その日の昼食後。私は槇寿郎さんに居間へと呼ばれた。
「どうされたんですか?」
「いや、君に話しておかなければいけない事が出来た」
なんだろう……。
座卓の前に腰掛け、槇寿郎さんと向き合う。
「千寿郎の事だが……」
「はい……」
「日輪刀の色が変わらない事がはっきりした。よって七瀬さん。今後は君が正式に杏寿郎の後継と言う事になる」
「そう……ですか……」
「槇寿郎さん」
「どうした?」
「申し訳ありません。私、柱になると言う考えは全くありません。想像出来ないんです……」
「そうか。しかし、君もわかっていると思うが鬼殺隊に所属している限り、生と死は常に隣り合わせだ。杏寿郎もいつ何があるかわからんぞ」
「はい……そう……ですね」
改めて突きつけられる現実。
“継子は柱の後継”
これが私の心を少しずつ少しずつ、蝕んでいく事になる。
一度衣服に付着してしまうと、洗っても洗ってもなかなか落ちにくい……血液の染みのように。