第57章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎
槇寿郎さんとの話が終わり、自分の部屋に向かう途中。
庭先で千寿郎くんが素振りをしている所を見かける。
“日輪刀の色が変わらない事がはっきりした”
彼をそのまま後ろから見つめていると、先程槇寿郎さんから言われた事が脳内を反芻した。
………話しかけるかどうか迷っていた丁度その時、目の前の背中がくるっと回転し、千寿郎くんから声をかけられる。
「七瀬さん。あなたにお話しないといけない事があります」
「はい、これどうぞ。よく冷えているよ」
「ありがとうございます」
私はおぼんに乗せた2人分の麦茶を置き、縁側に座っている千寿郎くんの左隣に腰掛けた。
「……………」
「……………」
お互い湯呑みから麦茶を飲む音だけが、そこに響く。
トン……とおぼんに湯呑みが置かれ、ふう…と1つ長い息を吐き出した千寿郎くんがポツ、ポツ……と言葉を紡ぎ始めた。
「こうして2人でしっかりお話するのは初めてかもしれませんね」
「そうだね」
煉獄邸に住み始めて1年2ヶ月と少し。毎日のように食事を共にし、時々一緒に買い物に行く。
雑談はよくしていたけど、彼の言う通りこうしてじっくり話をする機会はなかなかなかったように思う。
「申し訳ありません。俺の日輪刀の色は変わりませんでした」
「うん……さっき槇寿郎さんから聞いたよ」
「そうですか……」
「うん……」
「…………」
「…………」
またしばらく沈黙が続いた。
「千寿郎くんはさ、私が疎ましくない?」
「え……どうして七瀬さんがそんな事を言うんですか」
彼の白日(はくじつ)の双眸が大きく揺れる。
「だって……」
その先は上手く言葉が出せなかった。何と言ったら良いか全く思い浮かばなかったからだ。
千寿郎くんがまた1つ深い息を吐き出した後、こう声に出す。
「全く思いませんよ。だって七瀬さんは継子である前に、兄上が大切にされている恋人ですから。俺にとっても大事な方です」