第57章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎
「お館様、おなりです」
可愛らしい響きが二つ聞こえた—— かと思うと、目の前のお屋敷奥の襖が開かれ、振袖を着たおかっぱ頭の少女が2人程こちらに向かって歩いて来る。そして縁側の廊下前までやって来た所で、左右に分かれて腰を下ろす。
「よく、来たね。私のかわいい剣士(こども)達」
向かって右側からその声の主を支えるようにしている白髪の女性は産屋敷あまね様。
そして、今しがた穏やかで心地よい声音を響かせた男性は”お館様”と隊士全員から敬われている、産屋敷耀哉様だ。
「おはよう、皆。緊急の柱合会議にも関わらず、朝から来てくれて本当にありがとう」
“天気も良さそうだね”そう穏やかに声を出すと、彼は顔を少し上げる。
お館様…1年振りぐらいにお会いしたけれど、お顔の痕が少し広がっている…。
去年は鼻の上までだった紫色の皮膚が、鼻を覆うぐらいまでに拡大しており、私は胸がぎゅうっと締め付けられた。
「お館さまにおかれましても、ご健勝で何よりです。まだまだ暑い日々が続きますので、お体に気をつけてお過ごし下さい」
そう言葉を発したのは私の隣にいる杏寿郎さんだ。
「ありがとう、杏寿郎。それから炭治郎に七瀬。ごめんね、突然の声がけ驚いた事と思う。今からそれを説明していくね。皆は大手町にある将門塚は知っているかな?」
“え……”
私は心臓が口から飛び出しそうになった。
「平将門公の首が祀ってある…”首塚”と言われている場所でしょうか?」
「しのぶ、合ってるよ。ではあまね、みんなに話をしておくれ」
お館様は隣に座っている奥方にそう声をかけると、了承の返事をしたあまね様が手に持っている和綴じの冊子を音読し始めた。