第57章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎
「お心遣い痛み入ります……」
夕葉は両手をつき、額を床に擦り付けるようにして無惨に頭を下げた。
下げたが……彼の本心は全く違う。
鬼殺隊が10個の階級で隊士の位置付けが決まっているように、12鬼月も階級制である。
上弦も下弦も共に壱から陸までの6つずつ。この数字は少ない数程、上の位…と言う事になり、それによって他の鬼からの評価等も変わる。
夕葉は下弦の壱。下弦だが、1番上の位と言う事になる。
対して、朝霧は下弦の弐。自分より1つだけではあるが、下の位に位置する鬼。
壱の自分が弐の鬼の助けを借りてみよ、と主君に言われる。
12鬼月の数字は絶対的な物である。故に夕葉にとって、先程の無惨の発言は屈辱的な物なのであるが、そんな事は口にも出せないし、心でも感じれない。
—— 何故なら無惨によって生み出された鬼は彼を前にすると、思考と胸の内を全て読まれてしまうからである。
「無惨様、私にお任せ下さい。その小娘、始末して参ります…」
もぎとられた鼻がようやく半分程再生した朝霧は嬉々とした表情で無惨に申し立てた。
「上手くいった暁には私の血を更に分けてやろう」
「ありがとうございます!必ず……」
ベベン——
その時。鳴女の琵琶が再び無限城内に響いたかと思うと、朝霧の姿がスウ……とその場から消え、無惨の前に平伏しているのが夕葉のみとなった。
「……お前の顔は本当に美しい」
「いつも褒めて頂きありがとうございます」
無惨が夕葉にグッと顔を近づける。
「茜色の双眸、きめ細かい肌、形の良い鼻…に紅を塗らずとも、艶やかに輝く唇……」
無惨の右人差し指が順番に夕葉の顔の部位をなぞっていく。
「……やはり見た目も体も極上だな」
その右掌にはもぎ取られた夕葉の目、鼻、口…がいつの間にかのっていた。
「特にこの夕暮れの双眸はたまらなく美味い」
左手の指で2つの眼球を掴むと、口に含み、それらを満足そうに口腔内で転がしていく。
“俺はこうして今日もこの方の玩具となる———“
この声にならない声、心にも浮かべる事が出来ない思いは誰に聞かれる事もなく。
夕日が暗闇に吸い込まれていくかのように、深く深く無限城の底に沈澱していくのであった。