第56章 山吹のち、姦し(かしまし)ムスメ
栞さんは私が杏寿郎さんの事を尊敬しているのと同様に、不死川さんをかなり尊敬している。
強くて全く敵わない所も一緒。だから悔しい所も一緒。
あまりに強いから、起きてすぐに稽古をお願いするも全然勝てない。
ならばと腐ったおはぎを食べさせた後に稽古を……と目論んだが、間違って自分が食べてしまい、逆に看病されてしまう。
もう真っ向勝負しかない。そう悟るけれどやはり勝てない……
「だったら師範と同じ柱になるしかない…心の底からそう思ったから、ひたすら奮闘中なの」
そこまで一気に喋り倒すと、冷たい麦茶をゴク、ゴク、ゴク…とこれまた一気に喉に流し込んだ彼女は、湯呑みをトン!と卓に置き、最後のわらび餅をパクっと口に放り入れた。
「栞さんの気持ちよくわかりました……」
「私も聞きたい。七瀬は、どうして柱に…って思えないの?」
うーん……と右手人差し指をおでこに一回、二回と当てて考えを巡らしてみる。
「私は同じ呼吸を使っていますけど、何て言うんでしょうか。師範にはずっとずっと遥か先に行っててほしいんです。もちろん追いつきたいし、悔しいですよ」
うん、うんと頷いてくれる栞さんだ。
「彼によく言われるんです。”師匠が弟子に簡単に負けるわけにいかない”って」
「私も同じような事言われるかも…」
「やっぱり?……本当にそうだよねえって私、思ってて」
言われた時の事を思い出して、ふふっと笑う。