第56章 山吹のち、姦し(かしまし)ムスメ
「……それで彼女があの時首を掴んでいたと言う女の子が…」
「うん……」 「はい……」
「旦那さんと女中さんの間に出来たもう1人のお子さんだったそうです」
……通常、鬼になった者は人間の時の記憶を忘れてしまうと言われている。ただごくたまに人間だった時の思いを覚えている場合もあるんだな、と言う事を私は今回初めて知った。
「1人目の男の子は”呉服屋の後継ぎを”…と言う自分が成し得なかった事ですから、彼女の中で色々な思いを噛み砕いて来たんだと思います。”仕方ない” “どうしようもないんだ” そう言ったように」
だけど——
2人目が生まれた。しかも女の子。遊郭にいる間にお客さん達から聞いていたのだろう。大層可愛がられていると。
「自分が子供を産んだ時は、あんなに罵倒されたのに。何故別の女性が産んだ子供は周りから大事にされるのか。これがどうしようもなく許せなかったんでしょうね。何が違うんだ…って」
腹に煮えたぎるような憎しみの念を充満させていた時に無惨が彼女の前に現れる。鬼の始祖である彼はその念を早々に察した後、提案を持ちかけた……と言う所だろうか。
そして彼女は鬼になり、夜な夜な同じ年頃の子供達を狙った。この子も違う、あの子も違う。何回かそれを繰り返し、ようやく目的の女の子にたどり着く。
「鬼になった者は問答無用で滅するのが、私達鬼殺隊のやるべき事ですけど…。何だか今回の任務は色々考えさせられました」
事の全容をようやく2人に話し終えた私は、ふう……と深く息をはき、自分が注文した黒蜜のわらび餅を1つ口に入れた。