第56章 山吹のち、姦し(かしまし)ムスメ
“あなたは見た目ばかり良いだけで、肝心な時に役に立たない”
これが呉服屋を出ていく時、最後にお姑さんからかけられた言葉だったようだ。
「子供達には”少し出かけてくる。自分が戻るまではお父さんやおじいちゃん、おばあちゃんの言う事をよく聞いてね” それだけ伝えて……泣きたいのを必死で我慢する子供達をありったけの思いを込めて抱きしめた後、姿を消したそうです」
「………」
「………それで、彼女はどうしたんですか?」
「今まで綺麗だって言われて来た女の人が行き着く先って…限られるよね?」
「……遊郭ですか」
彼女はその器量ですぐにお客の前に出された。最初は良かった。黙っててもその場にいるだけで成り立っていたから。幸い所作だけは呉服屋で過ごす内に自然と身についていたので、問題はなかった。
しかし、その内に教養や芸を客…そして店側から求められるようになる。これがいくら努力しても努力しても身につかない。
そこでも彼女はこう言われる。
“見た目だけだね。あんたの取り柄は”
そんなある日、彼女に指名が入る。
“何の芸もないあんたでも良いとの事だ。お得意様だからね。くれぐれも粗相がないように”
そう念を押される。
このお客と言うのが………
「鬼舞辻無惨だったそうです。彼女の身請けをして……そこからどう言う経緯を経たかは不明なんですけど…結果として彼女は鬼になりました」