第56章 山吹のち、姦し(かしまし)ムスメ
「そっか……良家に嫁ぐとなかなか大変なんだね」
「はい…ただ子供を産むだけじゃなく、まずは男児を望まれる事が多いようで」
「でも七瀬さん達が助けたのは女の子ですよね?その話からすると、まず狙われるのは男の子のような気がするんですけど…」
抹茶のわらび餅を注文した栞さんと、きなこのわらび餅を注文した沙希がそれぞれ感想を漏らす。
あの女鬼は私が思った通り、人間時代は美人で性格も申し分なかったと言う。それが評判を呼んで、呉服屋の跡取り息子との縁談が持ち上がり、無事に結ばれて夫婦になった。
所が———
子供を授かるけれど、生まれて来るのは3人共女の子ばかり。旦那さんは全く気にとめてなかったけど、彼の母であるお姑さんはそうではなかった。
“うちは代々続く由緒あるお店なの。嫁の務めはお店をこの先も繁栄させる為に、立派な世継ぎを産む事。それが1番重要なんです”
彼女はお姑さんのこの言葉に応えようと、あらゆる手を使って男児を授かる為に努力をした。だけど健闘虚しく、その望みは成就しない。途方に暮れていた所、密かに旦那さんの事を慕っていた女中さんが彼と親しくなった。
「旦那さん、最初は女中さんの事をただの女中さんとしてしか見てなかったようなんですけど、彼もお姑さんから早く後継ぎを!って圧力がかかって心が弱っていたみたいです。そんな時に甲斐甲斐しく世話を焼かれて……」
「魔が差したんですね」
沙希の言葉に頭を縦に振り、私は話しを続ける。
2人は急速に親しくなった結果、女中さんは念願の男の子を産んだ。お姑さんは諸手を上げて喜んだ。
「結局女鬼の彼女は居た堪れなくなって、自分から家を出たそうです。子供達も一緒に連れていこうとしたら”息子と血が繋がっている孫達は置いて行きなさい。あなた1人だけで不自由なく育てる事が出来るの?”って言われたそうで…」
「それ言われたら、母親は何も言えなくなるね。私も育手の所で修行してた時にそこの子供達と一緒に過ごしたんだけど……子供ってこんなに育てるの大変なんだ…ってあの時に初めて知ったもの」
栞さんがその時の事を思い出したのだろう。明るい彼女が珍しくため息をはいた。