第56章 山吹のち、姦し(かしまし)ムスメ
「この先の続きを所望する」
「続き…」
「ああ、それに君を思い切り労うと言ったしな」
彼の唇が綺麗な弧を描いた…かと思うと、今度は杏寿郎さんから優しく温かい口付けが自分の唇に届く。
じんわりと染み込むような、気持ちのこもった思いと共に。
一回だけ音を響かせた後、いつものように私の左頬を撫でると彼はスッと立ち上がる。
私もそれに倣い、立つ。すると——
「湯浴みをする」
「はい、じゃあ用意しますね!」
浴室に向かう為、体をそちらの方向に向けるとパシッ…と彼が私の右手を掴んだ。
「あの…どうされました?」
「3日ぶりに会った恋人を早く労いたくてな」
“共に行こう”
そして、杏寿郎さんの右手が私の左手と絡みあう。私は浴室に向かう道中、ずっとずっと胸が高鳴りっぱなしだった。
湯浴みが終われば宣言通り、恋人からの溢れんばかりの労いを全身で受け止める——
★
「……夜、明けちゃいますね」
「そうだな」
2人のふれあいはひと段落したけど、私は彼の背中に両腕を回し、ぴったりとくっついている。左耳を杏寿郎さんの心臓の位置に当てるのはもういつもの事。
今は午前4時30分を回った所だ。夏の夜明けは早い。もう後30分もすれば太陽が昇り始めるだろう。
「あ!そうだ、杏寿郎さん。外出てみませんか?一緒に見たい物があるんです」
「む?見たい物か?」
「はい!見て損はないと思いますよ」
「わかった。君がそこまで言うのならば行ってみよう」
裸の私達は急いで衣服を着て、縁側から庭へと出る。
「良かった!間に合った…あれです、東の空を見てみて下さい」
私が右手人差し指で差した空の先。そこにあった物、それは———