第56章 山吹のち、姦し(かしまし)ムスメ
“明朗快活” “ 海闊天空”(かいかつてんくう※1)
“カラッとしていて、懐が深い” “優しく強い”
杏寿郎さんは隊士の誰に聞いてみても、こんな表現で評される人だ。実際私も知り合うまではそう思っていたし、継子……そして恋人になってもその印象は変わらない。
——けれど。
父である槇寿郎さん、そして母である瑠火さんの事を経て彼はたった1人。誰にも頼らずに努力して努力して、柱になった。
その努力している途中でも千寿郎くんの兄として、煉獄家の長男として、振る舞わなければいけない事も多かったと思う。
杏寿郎さんは強い。心も体も本当に強い。
これからも超えて行く事がたくさんたくさんあるだろう。
私は隊士としても人間としても、まだまだ未熟だ。だから彼の普段は絶対に見せないであろう、胸の内を受け止める余裕は残念ながらない。
…でも彼がこうして任務を終えた後、迎えて労う事は出来る。ささやかで小さな事だけど、今私を抱きしめてくれている杏寿郎さんからはとても穏やかな心音が、体を通して伝わって来る。
“君にしか出来ない、君だから出来る事を見つけて行って欲しい”
先日、杏寿郎さんは私にそう言ってくれた。継子としては自分の呼吸を探究していく。
彼の恋人として、私にしか出来ない…私だから出来る事。
それは杏寿郎さんの無事を心から願って、元気な顔で彼を迎える事だ。
瑠火さんが槇寿郎さんに毎回そうして来たように。
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※1…… 人の気性で心が広々として度量が大きく、何のわだかまりもない