第56章 山吹のち、姦し(かしまし)ムスメ
それから3日後。時間は23時を回った所。今日は冨岡さんの警護地区の見回りに同行した。特に変わりがなかったのでもう帰宅している。
記録帳に先日の陸ノ型の改の事や、日々の稽古で気づいた事…この3日間は自主稽古ばかりだったので、それらを記した後はパタンと閉じた。
文机の上に置いてある一冊の本が目に留まり、それを手に取ってパラパラ…と開く。
あっ、そうだ。今この星座が見れるんだった。久しぶりに星の観測をしよう。
思い立った私は襖を開けて、廊下に出る。そこからガラス障子の鍵を開錠して縁側に腰掛けた。
私の部屋は南側にある。この時期、南天の夜空で1番印象が強い星座と言えば……蠍座だ。夏の大三角と共に夏の星座として親しまれている。あまり星に詳しくない女性隊士に聞いてみても、この星座は何となく知っているようだった。
天の川に大きく横たわるように15の点で構成されている蠍座は、夏の南天を支配する…私は幼い頃からそんな印象を受けている。
「君は本当に星が好きなのだな」
「あっ、お帰りなさい……」
廊下の左側から隊服姿の杏寿郎さんが歩いて来て、そのまま私の左隣に腰を下ろす。
「ご無事のお戻り、何よりです」
「ただいま、七瀬」
左頬を包まれると、彼の顔がゆっくり近づいて口付けが私の唇に落とされた。
そしてぎゅっ……と抱き寄せられる。
「会いたかった」
「……私もです」
『見た目通りの人なんて、きっといないんだよね』
3日前、私が善逸に言った言葉だ。恋人の腕の中でふと考える。
杏寿郎さんこそ、見た目通りの人ではないのではないかと—