第56章 山吹のち、姦し(かしまし)ムスメ
山吹色の羽織が青紫色の羽織と一瞬重なる。
『巧……』
右目から一筋出て来た涙を慌てて拭い、鬼の頸が斬られた事によって地面に落下しつつある女の子の元に急いで走った。
無事に受け止めた後は状態をまず確認。怖さで声も出せず、静かに泣いていたから、閉じられた瞼の周りはまだ雫で濡れている。
首を掴まれていた為、赤く鬱血しているそこは少し痛々しいけど、善逸が型をあっと言う間に放ってくれたから、きっと数日すれば赤みも引いて行くだろう。
「よく頑張ったね。お母さんの所に戻ろうね」
2歳の体ってこんなに小さいし、軽いんだ……。小柄な私の片腕では持てないけど、両腕にはすっぽりと収まる。
「沢渡さん、預かります」
事後処理部隊の隠の方が前方から歩いてやって来たので、お願いします…とお願いしてその人に女の子を託した。
声から察するに女性。とても自然に抱き上げたので、子を持つ母親なのかもしれない。
さて、善逸だ。型を放った後は地面に突っ伏して本当に寝ている事が多い彼だけど ———
「七瀬ちゃん、大丈夫?」
八岐大蛇討伐の任務から目は閉じているけど、こうして会話が出来るようになった。あの時もかっこよさをしみじみと感じたけど、それは今日も健在。
凛々しい善逸である……目を閉じているけど。
「ありがとう、一瞬だけ善逸が巧に見えてさ。うるっと来ちゃった…」
思い出してまた泣きそうになるけど、何とか堪える。