第54章 霞明ける、八雲起きる
右耳に響いた低音がゆっくりと離れていく。
「また3日後にな……君の元に必ず戻る」
「はい」
ポン、と頭に一回掌が乗った後は2人で客間に向かった——
★
「無一郎くん、ちょっと良いかな…」
客間に杏寿郎さんと戻って、まずは彼の所に向かう。
「何?」
ふろふき大根を食べる手を止めて、私の方を向いてくれた。
「今日は勝負してくれてありがとう」
「何で君がお礼を言うの?お願いしたの、僕なのに」
無一郎くんが不思議そうに問いかけて来る。
「うん、そうなんだけどね。学べた事たくさんあるから……」
「学べた……」
「うん………」
「あのさ」
何?……そう問いかけた私に彼は———
「七瀬との勝負、凄く楽しかった」
「そう?光栄です。霞柱様にそう言って貰えるの……」
「だから、様はいらない。やめてよ」
「わかってる、言ってみただけ」
「なんかさ、君と話すと調子狂うんだけど」
それは私も同じなんだけどね…。そんな彼に本題を切り出す。
「……今度さ、また勝負してくれない?」
「いいよ。でも手加減なしだからね。君、倒しがいが凄くあるから」
「あはは……手厳しいね。でもありがとう、じゃあ私戻るね」
「うん……」
★
「ただいま戻りました。また勝負しようって伝えたら手加減しないよ…ですって」
さつまいもの甘露煮を食べている彼の隣に腰掛け、私も頂きます…と一言断りを入れて取り皿に取る。
「んー美味しい!今日は千寿郎くんが作ったんですよ。私じゃまだこの味が出せなくて……って聞いてます?杏寿郎さん」
右横を見れば、いつかと同じように珍しく口数が少ない彼だ。