第54章 霞明ける、八雲起きる
「長友さん、巧が私の恋人だったと伝えたら物凄く驚かれていました。それと同時に巡り合わせですね…と」
巧も私も辛い時、長友さんに激励してもらった。
「俺と君も巡り合わせではないか?桐谷くんが繋いでくれた縁だ。大事な部下が命を懸けてかけがえのない君を守り、俺に託してくれた」
彼のおでこがコツンと私のそれに当たる。温かくて心地よいこの行為は私達2人にとって験担ぎでもある。
「これ、効果無くなったんでしょうか。今日初めて負けてしまいました……」
また少しだけシュンとなってしまう。
「まじないのような物だからな。今まで負けなかったのはたまたまではないだろうか」
まじない……かあ。言われてみればそうかも。
「七瀬」
「あ……はい、何でしょうか」
おでこが離れ、今度は大きな手で両頬を包み込まれた。青天に佇む日輪のような双眸が私をじいっと見つめて来る。
途端に心臓の鼓動が速くなる。
「君に問いたい事がある。もしも柱になるとしたら、どんな柱に君はなりたい?」
「柱…ですか。考えた事もなかったです。うーん、そうですねぇ……。全く思い浮かばないので、どんな隊士でありたいか、でも良いですか?」
「ああ、それでももちろん構わない」
だったら……。
「私は鬼の存在を全く知らない方達が、当たり前に”また明日”と言える日々を守れる隊士でありたいですね」
そう杏寿郎さんに伝えると、彼は目を綻ばせてにっこりと笑った。
「桐谷くんも全く同じ事を言っていたぞ」