第54章 霞明ける、八雲起きる
「参ノ型・霞散の飛沫(かさんのしぶき)」
無一郎くんが放ったのは大きな円を描く回転斬りだった。
「んっ……!」
上から下に振り下ろした炎の斬撃ごと、自分の体も弾かれる——
私は後ろ向きにくるっと回転し、その途中で木刀を構え直すとこの型を放った。
「伍ノ型・改 —— 炎虎・番(えんこ・つがい)!」
大きな虎の斬撃が彼に向かっていく。そして途中で1匹だった炎虎は2つの頭を持つ双頭の炎虎に姿を変え、霞柱を挟み撃ちするように大きな口を開けて飲み込まんとする……が。
「伍ノ型・霞雲の海(かうんのうみ)」
無一郎くんがまた大量の霞で周囲を覆う。そして霞の中心から速く細かな太刀を入れて来る。
耳に神経を集中。
視界が凄まじく悪い。けれど耳で音を嗅ぎ分け、私は彼の太刀を受け流していった。
「漆ノ型 —— 紅蓮業火(ぐれんごうか)!」
炎を纏った木刀を反時計回りに振り、炎輪(えんりん)が現れた所で、そのまま一突き。
この斬撃で霞が晴れて行くと、彼の姿が少しずつ、はっきりと捉えられるようになって来た。
よし……次はこれ……!
「肆ノ型 —— 盛炎のうねり」
漆ノ型を後方から後押しするように炎の渦を出すと、この連撃で完全に霞が晴れる。すかさず、打ち込む。
カン、カン、カン、カン———
攻めては払われ、攻めては払われる。本当に寸分の狂いもない剣捌きだ。
そのまま打ち込みを続けていた所で、槇寿郎さんの声が響く。
「10分経ったぞ!2本目は引き分けだ!」
次の瞬間、庭中がワッと声援に包まれた。