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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第54章 霞明ける、八雲起きる


眼前に広がるのは先程よりも深く、大きな霞。庭にある木も石も、縁側に並んでいる柱の皆さんの姿も全く見えなくなった。

『どうすれば良いんだろう…』

思考が瞬時に迷い出す。こんな状態ではまた先程のように一太刀を浴びせられてしまう。
わかってはいるけど、そこから一歩も動けない。


“目でばっかり見んなよ。他の感覚も使ってみろ”

その時、私の脳裏に思い浮かんだのは—
かつての恋人、桐谷巧が言ってくれた言葉だった。







「痛いっ……!もう何でそんなに私の動きがわかるわけ?」

背中に目でも付いているのだろうか。全く自分の姿は見えてないのに、巧は後ろから仕掛けた私の攻撃をあっさりと翻し、そして一撃を右肩に入れて来た。


「音だよ。お前の息遣い、足捌き、それから木刀を振る方向。耳に神経を集中させて判断した」

「音……?」

「そっ、音」

巧は弾いた私の木刀を拾うと、ぽいっと放り投げるように渡して来る。
「っと……!」
慌てて両手で受け止めた。自分の右肩はまだじんじんと痺れている。


「雷の呼吸の使い手は自分も含めて、聴覚が発達している奴が多いと思う。派生呼吸の音の呼吸を使う音柱もそうだ」

確かにそうかも。巧、宇髄さん、そして後輩の善逸。善逸は人の感情が耳で嗅ぎ分けられるから、相当聴覚が良いのだろう。


「だから、相手の姿が見えない時は耳からの情報を頼りにして戦う場合が殆どだ。音柱は柱だから、一般隊士の聴覚とは段違いに優れている。言わないだけで、善逸と同じように感情も把握出来ているんじゃないか。俺はそう感じる時がある」

なるほど……。

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