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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第54章 霞明ける、八雲起きる



「お前も笑う事なんてあんだなァ?時透」

「え…僕、笑っていたんですか」

おゥ…と返答する実弥から竹筒と手拭いを受け取った無一郎は、彼に礼を言った後に竹筒の水をゴク、ゴク……と喉に流し込んだ。


『笑う…か』
無一郎はそれから2口水を口にすると、手拭いは使わず実弥に渡す。


「汗1つかいてねェって事は余力がまだまだあんだなァ」
「いえ、そうでもないですよ」

「へェ、意外だなァ」
「全力で倒したい…そう思えた相手ですからね。初めてかもしれません。こんな感情」


「はっ、そうかい。まあお前の気持ちはわからなくもねェな。あいつの太刀は面白ェ」
「はい、退屈しませんね」


無一郎は思い出す。

『胡蝶さんと勝負した時の七瀬は必死だった。手合わせ1つにどうしてあそこまで真剣になれるのか、不思議だった』


何となくその理由がわかった気がする。
“目の前の相手に負けたくない”
この腹の底から突き上げるような思いを持っていたからかもしれない。




「2本目、始め—— !」
槇寿郎さんの声が再び庭に響く。今度は最初から攻めた。やっぱり自分は相手にやられないと、力が出にくい。そんな性質なんだろう。

「炎の呼吸・壱ノ型」
「—— 不知火!」

迷った時。気持ちを切り替えたい時。そんな時は基本に戻る。
足と腰をグッ…と落とし、右足で地を蹴って無一郎くんの間合いに入った。


横一閃の太刀を素早く正確な剣捌きで払われる。それでも私は攻めていく。
カン、カン、カン——小気味よく響く木刀の音。


『伊黒さんと鍛錬しておいて良かったな…』

そうでなければ、こんなに打ち込む事なんて難しかっただろうから。

無一郎くんが木刀を弾き、後ろに下がる。

『何だろう…………!!』


「陸ノ型・月の霞消(つきのかしょう)」

目の前の彼は霞に包まれて、再び姿を消した。

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