第54章 霞明ける、八雲起きる
時刻は午前11時。
煉獄邸の庭の真ん中に私と無一郎くんが向かい合って立つ。
私はスウ……フウ……と細く長い息を1つした。
縁側には来客が全員ズラッと並んでおり、みんなが私達2人に激励の言葉をそれぞれくれている。
「2人共、そろそろ良いか?」
槇寿郎さんが私と無一郎くんに声をかけて来た。
「はい」
「僕も問題ありません」
「1本につき、時間は10分。それを合計3本。2本先制した方が勝利だ。休憩は5分ずつ」
わかりました……とお互いに返事をした後、相手に向かって一礼をし、木刀を構える。
「それでは1本目、始め —— !」
槇寿郎さんの声で、とうとう無一郎くんとの勝負が始まった。
まずは相手を探る。真っ直ぐとこちらを見る水縹色の双眸は始まったと言うのに、全く変化がない。
『迂闊に動けないな……』
「来ないの?—— なら、遠慮なく行くよ」
次の瞬間、無一郎くんが流れるような動作で動く。
「霞の呼吸 弐ノ型 —— 八重霞(やえかすみ)」
体を大きく捻りながら、幾重にも重なった…八雲を彷彿させるような斬撃が私めがけてやって来た。
「炎の呼吸 捌ノ型 —— 烈火の舞雲」
私の木刀から放たれた炎の龍が、青天に向かって螺旋状に昇って行く。
八重霞と八雲。
雲霞(うんか)が混ざり合った。