第52章 柱稽古に八雲挑む、の巻
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その千寿郎くんと、町に出て来た。
「今日の買い物はこれで良い?明日の材料は内田さんが調達して来てくれるんだよね?」
「はい、そうです。今日は買い忘れはないと思います……あ、でも七瀬さん、俺寄りたい所があるんですけど良いですか?」
もちろん!私は彼に答えると、目的の場所に一緒に向かった。
「あー…塩大福、売り切れですか…」
「そうなの、さっき買われたお客さんで丁度無くなっちゃって。ごめんね」
千寿郎くんが寄りたい所と言うのは以心伝心だった。
私が先日冨岡さんに差し入れた後に買って帰った所、とても気に入ったようで”また食べたい”と言ってくれていたのだけど…
「人気の商品ですもんね。わかりました、大丈夫です。また来ます!」
少し落ち込んだ様子を見せたものの、すぐに気持ちを切り替えて笑顔を見せる姿に胸がきゅう……と心地よく締め付けられた。
「お2人、宜しければこれ如何かな?」
「え……?」
お店の持ち帰り専用の窓口に立っていた私達に左隣から突然声がかかる。
顔を向けてみれば、とても穏やかな表情をした洋装姿の老紳士が立っており、先程購入したであろう大福の包みをこちらに差し出している。
「そんな!頂けません!」
千寿郎くんが慌てて両手を胸の前で振る。
「未来ある若者達に渡したいなと思ったんだよ。是非」
優しい口調だけど、どこか有無を言わせない……そんな彼に何となく逆らえない物を感じた私達は有り難く受け取る事にした。
私がお代を渡そうとしたら、良いから…と右掌で制されてしまい、彼は颯爽と街中に消えてしまう。
「ふふ、渋沢さんはどんな時でも変わらないねぇ」
「渋沢さん……?」