第52章 柱稽古に八雲挑む、の巻
「昔からのお客さんなんだけど、最近経済界をとても賑わせているんだよ」
「へぇ、凄い方なんですね……」
千寿郎くんは私が受け取った塩大福を見ながら、感心したように女将さんに答える。
「千寿郎くん、運が良いね!そんな方から譲って貰えるなんて!」
「本当にありがたい話です。今日は食べれないと思っていた物が、間を置かずにこうして手元に届くなんてなかなかないですよね……」
女将さんにまた来ます、と挨拶を済ませて私達は上機嫌で煉獄邸に帰宅した。
—— 因みに私と千寿郎くんがこの日遭遇した老紳士の彼。
大正の時代から100年以上経った日本に広くその存在を認知される事になる「日本資本主義の父」
“渋沢栄一”その人である。
もちろんこれはこの大正時代を生きている日本国民の誰もが、まだ知る由もない話 ——
★
「ほう、親切な方も世の中にはいる物だな」
「はい、鬼殺でささくれだった心がとても穏やかになりました」
任務が無事に終わり、同じく任務から帰宅した杏寿郎さんの部屋に私はやって来て、昼間の出来事を報告していた。
「とっても素敵な方でしたよ」
「七瀬がそこまで言うとは…俺も出会ってみたかった」
「いつか会えるんじゃないですか?未来で…なんて(※1)」
「未来か!君はまた面白い事を言う!」
それから”おいで…”と先に布団に入った彼が手招きをする横に私はスルッと入り、間を置かずにピタッとくっつく。
「今日は良い気分で寝れそうです」
目を閉じると、おでこと瞼に彼の唇が優しく当たる。
「おやすみ、七瀬」
「ん…おやすみ…なさい…」
最後に貰った杏寿郎さんからの口付けが、夢の世界に向かう誘い(いざない)の合図となり、私はスウ……と寝入った。
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※1……恋どこ14章に関連ストーリー有