第52章 柱稽古に八雲挑む、の巻
体温が高めの杏寿郎さんのおでこが当たると、ほっと出来るし、笑顔も自然と出る。
深呼吸を1つして、私からおでこを離すと今度はぎゅっ…と彼に抱きついた。
するとゆっくりと自分を包み込むように回される逞しく、太い腕。
この温もりに何度も励まされているのだけど、今回もそれは同様だ。
ピタッと彼の心臓に左耳をくっつけると、規則的に鼓動を打つ響きが耳元に届く。杏寿郎さんが生きている証だ。
小さな子供に母親の心臓の鼓動を聞かせると落ち着く……そんな話をどこかで聞いたけど、私にとって同じような物かもしれない。
「……七瀬?起きているか?」
頭上から少し心配そうな声が聞こえる。
「…あ、はい。何とか」
……あまりにも心地よくて寝てしまいそうになった。
「やっぱり杏寿郎さんのここは力を貰えますね…震えた気持ちもどこかに飛んでいきましたよ」
「そうか!」
顔を上げれば、にっこりと笑う彼の笑顔。
「これから、千寿郎くんと買い物に行って来ます」
そう言って離れようとすると、今度は彼が抱きしめてくれる。
「杏寿郎さん?どうしました?」
私は背中に両手を回して、ぽんぽんと撫でる。
「…君が今夜来るのを待っている。共に寝よう」
「わかってましたか。流石ですね。はい、じゃあ伺います……」
彼から離れる前に私からも口付けを贈り、ぎゅっ…と一度抱きしめて千寿郎くんの元に急いだ。