第52章 柱稽古に八雲挑む、の巻
そうだァ……不死川さんは座卓の向かいで和綴じの記録帳に書き込んでいく私に同意した。
「よし、座学は終わりだァ。お疲れさん」
「はい、ありがとうございました」
記録帳をパタンと閉じ、筆を硯(すずり)に置いた後は頭を彼に向かって下げた。
そこへ……
「師範、七瀬。お疲れ様です!たくさん持って来ましたよ!さあ、どうぞ」
ドン、と大皿に溢れんばかりに乗ったおはぎを運んでくれた彼女は佐伯栞さん。不死川さんの継子であり、兄弟子の冨岡さんの恋人だ。
「おゥ、ありがとなあ」
「栞さん、ありがとうございます。でも流石に多すぎませんか?」
苦笑いをしながら私がそう言うと、大丈夫よ〜私達が食べきれない分は師範が全部食べるから…と緑茶を急須から湯呑みに入れながら笑って応えてくれた。
「おい、俺はそんな大食漢じゃねぇぞ」
「え?先日私と長友さんと食べた時も、殆ど食されてたじゃないですか……わあ、今日のも美味しいですよ、ほら2人も早くー」
栞さんは相変わらず栞さんだなあ。サラッと不死川さんの実態?を暴露して、パクパクとおはぎを食べ始めた。
私は湯呑みに入っているお茶を一口啜ると、楊枝を手に持ち、おはぎを2つ取り皿に乗せてパクっと頬張る。
「んー!確かに餡子の甘さもですが、外側のお米もモチモチでたまりません!」
「うんうん、おはぎはもうこのお店のじゃないとダメでね……」
ここから私と不死川さんは彼女のおはぎ談義を20分に渡って聞かされる。こうなった栞さんは納得するまで熱弁し続けないと、話が途切れない。
—— そう。これが佐伯栞、“全集中の喋り”である。