第52章 柱稽古に八雲挑む、の巻
岩柱との柱稽古……
岩柱邸の客間にて。
座卓を囲み、私の正面に悲鳴嶼さんが、右横には玄弥が座っている。
サッサッサッサッ………
3人共に無言で、自分達の目の前に置いてあるわら半紙に向かい合い、一生懸命に筆を動かす。
書かれているのは「般若波羅蜜多心経」(はんにゃはらみったしんぎょう)
略して、般若心経(はんにゃしんぎょう)
“観自在菩 行深般若波羅蜜多時(かんじざいぼさつ ぎょうにんはんにゃはらみったじ)………”
—— 写経である。
コト、と悲鳴嶼さんが筆を硯(すずり)に置く。続いて玄弥が、最後に私が筆を硯に置き、ふう……と一つ深く息をする。
「普回向(ふえこう)」
全員両手を合わしながら、そう唱えて写経を終えた。
「写経、物凄く集中出来ました。悲鳴嶼さん、ありがとうございました」
「玄弥といつもやっている事だが、今日は君がいたから新鮮な気持ちで取り組めた。礼を言うのは私の方だ」
「ですね。いつも悲鳴嶼さんと2人だから俺も新鮮でした」
2人とスイカを食べながら会話を交わす。このスイカは私からの差し入れだ。
「いよいよ、来週だな。沢渡どうだ?心境は…」
「そうですね……緊張しています。やっぱり」
「相手は天才だもんな。俺本当、お前凄いと思うわ」
座卓の真ん中に置かれた大皿に、切り分けられたスイカが8個乗せられている。
それを1つ手に取り、シャリっと一口齧った玄弥は感心したように私に言って来た。