第52章 柱稽古に八雲挑む、の巻
音柱との柱稽古……
「うぇっ……苦し…うぇっ……」
私は真夏の太陽の下、音柱邸の庭で盛大に吐いていた。
「おー、予想通り派手に吐きやがったなあ。ちゃんと掃除しとけよ」
思惑通りだ……とニヤリと口角を上げ、ぞくっとする程綺麗な笑顔を見せるのは、この屋敷の主。宇髄さんだ。
何故こんな事になったかと言うと———
それは1時間半前に遡る。
「つまんねぇ。何だお前」
「いや、やり遂げたのにつまらないってどういう事ですか…」
心外です…思わず、冨岡さんの口癖が口をついて出そうになる。
宇髄さんにお願いしたのは基礎体力向上。腕立て伏せ、背筋、腹筋、反復横跳び、腿(もも)上げ、走り込み、彼の二刀流を受けながらの手合わせ……などをやったのだけど、私が全部の工程をこなしたのが気に入らないらしい。
「よし、特別に稽古を追加してやる。ありがたく思え。さっきまでの工程を全部やった後にもう一度腕立て伏せ500回を3巡だ」
「最後に腕立て伏せですか?」
1500回は辛いなあ……そう考えていた矢先。
「そ。雛鶴、まきを、須磨を背中に乗せてそれぞれ500回ずつな」
「え…冗談はやめてください……」
………………これで私の体力は限界を越えた。
「七瀬ちゃん、大丈夫ですかあ?」
須磨さんが水で濡らした手拭いとお冷やを持って来てくれた。
「ありがとう……ございます…」
受け取ったお冷やで、酸味で充満している口をすすぐ。
「よく頑張ったよ!偉い偉い」
よしよしと、背中をさすってくれるのはまきをさん。
「流石は炎柱様の継子ね。本当によく頑張ったよ」
そして頭を撫でてくれたのは雛鶴さん。
「ありがとうございま…す…ヒック…グス…」
私はお嫁さん達の優しさに感動して、おいおいと泣いた。