第49章 爪に緋色、唇に曙 、心に桃色をのせて +
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン——
川越駅まで歩いた後はそこから電車に乗り、行きと同じように国分寺駅で乗り換えた。
今は2つ目の乗り換え駅である新宿に向かっている。
「さっきまで田んぼばかりだったのに。あっと言う間に家々ばかりの景色になって来ましたね。日帰りでしたけど、小旅行をしたような気分です」
窓側の座席に座っている私は、通路側に座っている杏寿郎さんに行きの電車に乗っていた時と同じように話しかける。
「俺は君とその小旅行をした気分だが?」
「ふふ、ありがとうございます」
左手に絡んでいる彼の右手がより一層強く絡められた。
「あ、そうだ。今度写真を受け取りに行かないと。3人の写真が私早く見たいです」
3日前、煉獄邸に窪田写真館から誕生日記念の写真が仕上がったと電話で連絡があった。応対をしたのは私だ。
「ん?俺達の写真よりもか?」
やや悪戯心を見せながら、私にずいっと顔を近づける杏寿郎さんにまたドキッとさせられる。
「…もちろん、それも楽しみです。でも3人が写っている様子は私、見れなかったから…」
「すまない、つまらない事を言った」
「いえ……嬉しかったですよ」
私が笑顔を見せると、呼応するように返って来るのは杏寿郎さんの笑顔と———
そっと触れるだけの口付け。
「もう……他の人もいるんですよ」
彼の顔が離れた瞬間、コッソリと小さな声で抗議すれば「この席は他の席から死角になっている。故に問題はない」と言う杏寿郎さん。
………いつの間に確認したのか。そんな返答をされた私はぐうの音も出なかった。