第49章 爪に緋色、唇に曙 、心に桃色をのせて +
「でも杏寿郎さん、そうなると30日から前泊しないといけない気がします。きっと31日の早朝…いえ、深夜から皆さん並ぶのでは」
「む、確かにあっと言う間に配布終了になると言っていたな。その予想は正しいかもしれん」
「柱は本当に多忙ですから、除夜の鐘をつきに来るのは鬼殺が続く限りは難しいかも…」
せっかく提案してくれた彼の提案が叶いそうにないなあと思うと本当に残念だ。
ふう、とため息をつけば、しかし…と言葉をまた紡ぎ出す杏寿郎さん。
「確かに除夜の鐘をつくのは難しいかもしれないが、音色を聴く事とその後の初詣はやりくりすれば都合がつくと俺は思うぞ!」
「え…そうですか??」
顔をパッと上げると、にっこりと彼は笑顔を見せてくれる。
「それさえも忙しなくなるかもしれないが…まずは父上と千寿郎にやはり相談してみよう」
「はい、ありがとうございます…」
嬉しかった。
大好きな彼との未来へ向けた約束…と言うのはやや大袈裟かもしれないけれど、明日生きているかどうかわからない私にとって、それは大きな大きな力をくれる勇気になる。
「そろそろ任務の準備をせねばな。我が家に帰るとしよう」
私の左手をいつものように自然に取った後は、これもまたいつものように大きな右手できゅっ…と絡めてくれた。
「……はい」
駅までの道を朝来た時と同じように彼と2人、歩いて行く。
ふと空を見上げれば、夏の太陽はまだまだ頭上に鎮座していた。