第49章 爪に緋色、唇に曙 、心に桃色をのせて +
時の鐘の中には存在感のある大きな杉の通柱(とおしばしら)があるようだ。
川越は道が狭いので、この大木を運んでくるのにとても苦労したんだよと、ここに行くと未菜子さんに伝えた際に彼女がそう教えてくれた。
鐘付き台まで階段を使って上がって来た男性…鐘付き守と呼ばれている人が鐘を撞く準備をしている。それに伴い、私達の周りにも人が集まって来た。
お寺の鐘を突くのとほぼ同じ構造になっているらしく、男性が鐘をつくための撞木(しゅもく)についている紐を両手に持った。
「15時だ」
再度自分の懐中時計で時間を確認した杏寿郎さんが呟く。
次の瞬間、男性がボーン……と撞木で鐘を一度突いた。お寺から聴こえる鐘の音と殆ど一緒だった。
「何だか心に染み渡る音色ですね。暖かい音と言うか…」
「……そうだな」
耳が良い善逸だったら、どう表現するのだろう。そんな考えも頭によぎる。横にいる彼に伝えると「丁度同じ事を考えていた」と言って来た。
ふふ、嬉しいなあ。
「6時の鐘は夜明けを知らせる音なんでしょうね。それも聴いてみたいです」
そう私が言うと、杏寿郎さんがこう続ける。
「七瀬が厠に言っている間に律子さんから聞いたのだが…大晦日の時の鐘は除夜の鐘と同じ役割をするそうだ」
「へえ!それ凄く良いと思います」
その大晦日の時の鐘の詳細はこうだ。
当日の日中に一般参加者向けの整理券を配布した後、それを持って深夜の時の鐘に来てもらい、整理券に記載してある先着番号順に撞く段取りになっているらしい。
毎回長蛇の列であっという間に配布終了という盛況ぶりとの事。
「私、参加してみたいです…」
「この近くに宿を取って、鐘をついた後は氷川神社に初詣も良いのではないか?帰ったら、早速父上と千寿郎に話してみよう。宿泊すれば朝の鐘も聴けるぞ」
わあ、それはとっても楽しそうだけど…。
それと同時に柱の多忙さが物凄く気になる私だ。