第49章 爪に緋色、唇に曙 、心に桃色をのせて +
「あら?あなた、紅が取れてるわよ?」
未菜子さんが右手人差し指で自分の口元をちょんちょん、と指しながら私に言って来る。
あ、そうだ。塗り直さなきゃ。
「お食事と甘味があまりにも美味しかったから、忘れてました。ありがとうございます」
お会計を済ませた杏寿郎さんにお手洗いに行って来ると伝えて、私はやや早足で向かう。
厠の扉を開け、姿見の前に立つ。
持っていた巾着から紅筆を、そして掌に収まる大きさのアルミの丸容器を出した後は、上蓋を回して外し、中に入っている曙色の紅を筆を使って唇にのせた。
ちり紙を咥えて上下の色を整え、くずかごに捨てた後は待ってくれている3人の元に向かう。
未菜子さん、そして律子さんに再度お礼を伝え、次回は槇寿郎さんと千寿郎くんと共に来訪すると言うと、未菜子さんがとてもとても嬉しそうな笑顔を浮かべてくれた。
「みなさんとまた……こうして元気にお会い出来る事を楽しみにしています」
「煉獄さん、ご馳走さまでした。ありがとうございます…俺とカナヲの分まで」
「ご馳走さまでした」
「気にするな!こういうのは年長者の役目だ!」
お店の前で私は炭治郎とカナヲと共に、杏寿郎さんに頭を下げる。
4人分の食事代。通常でもそれなりの金額になるのが予想出来るけど、彼はそれに輪をかけた食事量だった。
これを難なく払えてしまうのは柱のお給料が一般隊士とは違い、自分が希望する金額だけ支給されるからだ。
「俺と七瀬は時の鐘に向かうが、君達はどうする?」
「絵馬に願い事を書き忘れたので、俺達はまた神社に戻ろうと思います」
と、言う事で私と杏寿郎さんは鐘楼(しょうろう)に、炭治郎とカナヲは氷川神社にそれぞれ向かう事に。