第49章 爪に緋色、唇に曙 、心に桃色をのせて +
〜炭治郎から見た景色〜
「うっ…うっ…ぐすっ…」
未菜子さんの寂しさを感じる匂い、そしてその後に心から安心した……胸いっぱいの嬉しさを感じる匂い。立て続けにその2つの感情が嗅覚に流れて来た俺は涙が抑えきれず、泣いてしまった。
「感動したみたいですよ」
「炭治郎、はいこれ」
七瀬が煉獄さんに俺が泣き出した理由を告げた後、右隣にいるカナヲが大きめの手拭いを渡してくれる。ありがとう、とお礼を言い、一度鼻を噛んだ。
顔を上げると、目の前に座っている七瀬がこう言ってくれた。
「炭治郎のそういう所、本当に癒される」
“ありがとう”と何故かお礼を言われた。
「少年!少し落ち着いたか?であれば、みんなで食べよう!」
七瀬の隣に座っている煉獄さんが両手を合わせて、促してくれる。
両方の目から溢れている涙を手拭いで拭いた後、ありがとうございます…と返答して俺は天ぷら定食を食べ始めた。
まずは自分の1番の好物。タラの芽の天ぷらを塩胡椒の小皿に漬けて、口に持っていく。多くの山菜は苦みやえぐみが強いが、タラの芽は苦みが少なく食べやすい。
もっちりとしているそれは、甘みとサクサクした食感が口の中で広がっていく。俺はこれが本当に好きなんだよなあ。
カナヲはラムネが好きだから、甘いさつまいも又はエビの天ぷらから食べているかな?と思い、咀嚼しながら目線を向けてみると…
味噌汁に口をつけた後、さつまいもの天ぷらを美味しそうに食べていた。
控えめな笑顔を浮かべながら。
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タラの芽…天然物が採れる旬は4月から6月上旬位までですが、ストーリーの都合上、使用しました。(炎落ちの季節はただ今7月中旬)