第49章 爪に緋色、唇に曙 、心に桃色をのせて +
「癒されます…」
「そうだな! 因みに先程耳にしたのだが、風鈴は二千個以上あるそうだぞ」
「へえ〜凄い数ですね!!」
自分達が鬼を狩る”鬼殺隊”である事を忘れる事が出来る瞬間……と言いたくなる程、風鈴達の音が織りなす調和に私と杏寿郎さんはほっこりとしていた。
風鈴回廊を抜けた先は本殿があり、その前を通ると今度は天井や左右の側面にたくさんの絵馬が飾られている隧道(すいどう=トンネル)にたどり着く。
「ここも素敵です!ねえ、杏寿郎さん。私達も絵馬に願い事書きませんか?」
「願い事、か?」
一瞬だけきょとんとする彼はやっぱりかわいい。
「炎柱の願い事って絶対叶いそうですもん」
「七瀬は相変わらず面白い事を言う」
わかった…と唇に弧を描きながら、彼は私の頭にポンっと大きな掌を乗せる。
隧道を抜けた後、絵馬を買って互いに願い事を書くと、再度隧道に向かって絵馬をかけた。
彼に見られるのが恥ずかしかったので、文字を書いた面を裏にして他の絵馬に重ねるようにしておく。すると ——
「恥ずかしいんです、見られるのが」
「これだけ多いんだ。悪目立ちはしないと思うぞ?」
「あ、ダメです〜!」
「すまん、すまん。その顔が見たくてな!」
私が書いた絵馬を表にしそうになった彼の手を慌てて押さえた。
ダメ、ダメ。本当に恥ずかしい!!
「もう…かんべんして下さい」
杏寿郎さんは堂々と願い事の面を表にして、結んでいた。
彼はそれから両手を絵馬に向かって合わす。
何となく意図が掴めた私は隣で同じように手を合わせてみた。きっと互いの願いが叶うようにって祈ってくれてるんだよね。
『杏寿郎さんと二人でまたこの神社に参拝出来ますように』
これは絵馬に書いた私の願い事。
至って普通なのだけど、外で見られるのは何だか照れくさいのだ。
それから江戸風鈴が購入出来ると聞いたので、煉獄家用に一つ買って川越氷川神社を後にする。