第46章 八雲心炎、燃ゆる立つ
「俺の継子は本当に自慢だなと改めて思った」
「ありがとうございます、嬉しいです。でも自慢は少し恐れ多い……わっ、ちょっと痛い、です」
突然背中に回っている彼の腕の力が強くなり、私は驚いてしまった。
「君は今日初めて俺に負けなかった! 初めてだぞ?」
「ふふ、凄く嬉しそうですね」
「嬉しい以外に言葉が見つからん!」
一本だけど、杏寿郎さんが言うように私は負けなかった。
真剣勝負は勿論、娯楽のかるたでさえも勝った事はなかったんだよね。
これ以上謙遜はしないでおこう。
せっかく前向きな言葉を伝えてくれた彼の思いを無碍にするのは良くないな、と思った私はそう決めた。
「杏寿郎さんの心炎が今日も燃えています」
「ん?どういう事だ?」
私が上を見上げると、2つの日輪がこちらを優しく見つめてくれた。
ここの事ですよ、と今まで私が耳をあてていた彼の心臓を右手人差し指でトントン…と指す。
「陸ノ型の〈心炎〉は杏寿郎さんの事なんです。いつもここから温かくて力強い灯火を感じるので」
「そうか」
恋人は嬉しそうに顔を綻ばせる。
「でも煉獄家は槇寿郎さんも、千寿郎くんも心の炎を持っていると思います」
「なるほど、心の炎か」
はい、と頷いた私は彼の心炎にそっと口付けた。
「では捌ノ型の〈舞雲〉は、よもや…?」
「八雲からです。同じ数字なので掛けてみました。なんか恥ずかしいですね…」
そのまま彼の胸に顔をうずめる。
「君は今日非番か?」
私がこの時間になっても着ていないからか、杏寿郎さんがそう聞いて来た。はい、と頷けば頭上から彼が嬉しそうに笑う気配。
「今宵の任務の後、君を労いに行く」
「労い……」
「うむ!」
この時。
杏寿郎さんの双眸の奥に弱火だけど、しっかりと燃え始めた炎が見えた気がした。