第46章 八雲心炎、燃ゆる立つ
日付が変わった1時過ぎに私の部屋の襖がゆっくりと開かれる。
「ん…杏寿郎さん…?」
寝ないで待っていようと思っていたけど、昼間の勝負の疲れからいつの間にか眠ってしまったようだ。
起き上がり、寝ぼけ眼を少しこすりながら焦点を合わすと、着流し姿の恋人が傍に座っている。
「ただいま、七瀬」
「お帰りなさい。ご無事のお戻り何よりでした」
頭の頂きから足先まで怪我がないかまず確認。
それがない事がわかった私はホッと安心の息をついた。
「怪我は大丈夫ですね、良かった」
「ああ、問題ない!」
彼は私の右手を自分の左手でゆっくりと絡めると、指先に優しい口付けを落としてくれた。
「今日1番頑張ったのはここだな」
「そうですね、終わった後は両手がしばらく痺れていました」
「ではこちらも……」
右手と同じように左手の指先にも優しい口付けが落ちる。
「…………」
「…………」
大きな両手が私の頬を包み込んでくれた。
「今夜は君をたくさん甘やかしたい」
「ありがとうございます。でもいつもそうしてくれますよ、杏寿郎さんは」
「そうか?」
「はい」
顎を掬われると近づく彼の顔。私は目を閉じて、恋人が与えてくれる口付けを受け止める。
「労いの時間だ、七瀬」
杏寿郎さんとの大事な大事な時間が今宵も始まった。