第46章 八雲心炎、燃ゆる立つ
「杏寿郎、一本!」
槇寿郎さんの声が庭に大きく響いた。自分が両手に持っていた木刀は右後方に転がっている。
「しのぶさんとの勝負の時に私が使った戦法ですか…」
肩で息をする私に向かって、ああそうだ…と杏寿郎さんは応えた。
打つと見せかけて一度自分の動きの拍子をずらす。
これで私は蟲柱の動きを迷わせ、一本を取ったのだけど、それを彼にやられてしまった。
受けた方の戸惑いってこんな感じなんだな。私はしみじみと実感した。
はあ……と深く息を吐き出して呼吸を整えた後、先程と同じように千寿郎くんからお水を渡される。
「兄上、さすがですよね。でも俺はその兄上に対応出来ている七瀬さんも凄いと思います!」
「千寿郎くんありがとう。もう涙出そうなぐらい嬉しいよ……」
実際に目頭が少し潤んだ。
次が最後か…まだ炎虎が残っている。前回捻挫をして、杏寿郎さんの伍ノ型が少しだけ怖い思いもあるけど、それでも向かわないと彼に勝つ事は出来ない。
双頭の炎虎は炎虎単体には威力が及ばない。
生生流転だって前回紅い虎に仕留められてしまった。一体どうすれば対応出来るのか…。
同じ炎虎で対応?…いや、私自身が苦手とする型だもんね。杏寿郎さんの得意技にぶつけても勝ち目は…。
思考の堂々巡りをしていると、3本目行くぞ!と槇寿郎さんの声がまた届いた。