第46章 八雲心炎、燃ゆる立つ
杏寿郎は思う。
いつも恋人として甘えて来る七瀬は間違いなく、普通の女子だ。そしてかわいらしく、愛おしい。
しかし、今目の前にいる七瀬は炎柱の継子であり、同じ呼吸を使う剣士だ。自分を本気で倒そうと考えている1人の隊士である。
9ヶ月前より確実に力をつけたし、新しい型を編み出したと言う自信もある事だろう。しかし、師匠である自分もまた研鑽を積んで来た。
『では俺もこの型を出すとしよう』
一度だけしか見た事はないが、自主稽古で何回か試し打ちをした事がある。故に頭の中でそれを自分が放つ表象(ひょうしょう=イメージ)は出来ている。
「漆ノ型 」
杏寿郎は反時計周りに、体の前で円を描くように太刀を回す。
するとその太刀の動きを追うように、炎の円輪が出現する。
「紅蓮業火!(ぐれんごうか)」
突き出された炎輪(えんりん)が七瀬の放った陸ノ型に真っ直ぐと進んでいった。
2つの型がぶつかる間際に、杏寿郎が放った炎輪がグッと縮んで、陸ノ型と混ざり合う。
それは相殺の状態になり、フッと消え去った。
「10分経ったぞ!1本目は引き分けだ」
その時、審判である槇寿郎の声が響いた。