第45章 ヒノカミのち、蝶屋敷 +
「文明堂のカステラ」
え………?まさかこの言葉をまた聞く事になるなんて…。
私は驚きで目を見開いた。
「うむ、やはり反応したな!」
杏寿郎さんは満面の笑顔だ。
「もしかして……?」
「ああ!買って来たぞ!」
えー……そうなんだ…。
「あの、杏寿郎さん。すみません……」
「ん?どうした?気に入らなかったか?」
「いえ、そうではなくて………」
私は事情を話すと、彼が少しだけ残念そうな反応をする。
「そうか、もう食べてしまったのか…」
「すみません。まさか3人の所にあるなんて思わなかったので」
「猪頭少年の目の付け所は凄いな」
「そうですね。びっくりしました。でも本当に美味しかったので、杏寿郎さんとも食べたいなあって思ってたんです。だから買って来て下さった事、とても嬉しいです」
ありがとうございます…とお礼を伝えた後、右手に絡んでいる彼の左手を私もそっと絡めた。
「実は蝶屋敷でも、同じカステラを頂いたんです。私がきっと食べたいだろうからって。だから買って来てくれたカステラは2人で食べたいなあって思うんですけど、いかがですか?」
「うむ、そう言う事なら是非ともお願いしたい」
彼の顔が近づき、私の唇に触れるだけの口付けが届く。
「…私、まだ怒っていますからね」
「ああ、わかっている…」
そう言って、恋人はまた柔らかい口付けを1つくれた。