第43章 ★ 獅子なる星が降る夜に〜彼目線〜 ★ ✳︎✳︎
“背中”
この言葉を聞いた途端、彼女は顔を下に向けてしまった。まだ性急だったか……。「無理はしなくて良い」と、すぐに伝えた。
「綺麗なものではないですよ?」
すると七瀬は、顔を上げながら答えてくれる。
「それは見ても良いと言う事か?」
念の為、もう一度。
確認するように俺は問いかけた。
首をゆっくりと縦に振った彼女は少し時間をかけて、背中をこちらに向けてくれる。
小さく、引き締まった背中が目の前に現れた。確かに胡蝶から聞いていた通り、小さくはない傷だった。
右肩甲骨の下から左下に斜めに走っているもので、長さはおよそ、30センチ程……と言った所か。赤みはとうに治まっているが、皮膚の表面が全体的にでこぼことしている。
この傷と一緒に刻まれている記憶。それは桐谷くんが亡くなった事だろう。
“…………君がこの背中に抱えているものを全部受け止めたい”
そう思った俺は右手で傷痕にゆっくりと触れた。
「ん……」
「すまん、痛むか」
「いえ、大丈夫ですよ」
大丈夫なら良いのだが……。
「七瀬」
「何でしょう」
「この傷をみたものは胡蝶以外にいるか?」
「いいえ」
彼女が首を横に振った瞬間、自分の胸に深い安堵の気持ちが湧いた。