第42章 緋色のあなたへの贈り物 〜さつまいもの甘味を添えて〜 +
「そうか。今日は残念だったが、明日は全員で祝える事を願おう」
「はい」
その後、氷嚢を新しいものに交換した千寿郎は槇寿郎と一緒に彼女の様子を再度見に行った。
そして次の日。
5月10日。杏寿郎の誕生日当日……
チュンチュン……と襖の外から雀が鳴く音が聴こえる。
ん、朝か……と言う事は杏寿郎さんの誕生日……。
昨日より体が重くない。熱を測らないと…と思い立ち、起き上がろうとすると右手に温もりがあった。
「おはよう、七瀬、具合はどうだ?」
朝の稽古を済ませた杏寿郎さんが、昨日と同じように両手で私の右手を包んでくれている。
「おはようございます……いつからいらっしゃったんですか?」
「ほんの10分前からだ」
ニコッと朝日のように眩しい笑顔だった。
ふふっと笑顔になった私はおぼんに置かれている体温計を左脇下に挟む。多分……下がっているはず。
確信はあるものの、それでもドキドキしながら時間が過ぎるのを待つ。そして、体温計を脇下から取り出した。
「あ…下がりましたよ」
起き上がった私は恋人に36度3分の線を示している赤い水銀を見せた。
「そうか、良かった!」
杏寿郎さんが私の右手をグッと自分に引き寄せ、抱きしめてくれる。嬉しくなった私は彼の背中に腕を回すと、更にぎゅ…と包んでくれた。