第40章 彼を褒めれば笑顔に当たる ✳︎✳︎ +
「では共に、湯浴みに行くとしよう」
「……はい」
腹部が懐紙で拭き取られた。
ほんの少しだけ物寂しくなる瞬間だけど、橙に彩った両の指先にも彼は丁寧に口付けを落としてくれた。
これもまた優しい愛撫だ。
「また見せてくれ」
「わかりました、あっ杏寿郎さん…待って」
「どうした?」
きょとんとした彼の左胸に赤い花を三つ程咲かす。これはさっき私がやってもらったのと同じ愛撫だ。これは爪先同様、揃いの物。
いつも如何なる時も私より上手(うわて)な彼。でも凄く凄く優しい人。彼と私の爪に載せた日輪が湯浴みで沈んでしまうまでの、およそ一時間。
——お互いの左胸に三つほど。
大きさは金柑一つ分、と言うのはもちろん私達だけの秘密だ。
✳︎七瀬目線✳︎
終わり