第40章 彼を褒めれば笑顔に当たる ✳︎✳︎ +
「あ、もう杏じゅ……」
「すまん、一度触れてしまうと…」
スルッと着物の合わせ目から掌が侵入して来る。もう私の胸の先端は質量を増し、きっと膨らんでいる。それは自分で見なくてもわかってしまう。
でもちょっと待って欲しい…!!
「汗、かいたから…湯浴みしないと」
「別に構わないぞ?」
杏寿郎さんが気にしなくても、私はやっぱり気になる。しばらく動きを止めていると「俺のにおいが気になるんじゃ無いか?」と問いかけて来る。
「……大丈夫、です」
「七瀬、無理はするな」
「無理は……」
違うんだけどな。どう伝えたら良いんだろう。言葉が上手く出ないや。でも言うの恥ずかしいなあ。
「あ、あの。杏寿郎さん……そうじゃなくて」
「俺のにおいが気になるのだろう?」
そっと自分の両頬が包まれた。
首を傾げながら私を見る恋人に、胸が甘く疼く。
大好きな彼の双眸に映り込む自分は、緊張しているのがよくわかる。瞬きの数も多い。私は正直に言う事にした。
「驚かないで下さいね」
「うむ! 伝えてくれ」
“杏寿郎さんのにおいが凄く好きだから、自分も全然気にならない”
「……光栄だな!」
「本当ですか? 気持ち悪いって思いません?」
「先程言っただろう、全く気にならないと」
「……そうでした」
杏寿郎さんは本当に器が大きいな。ほっと息をついた自分の口元がゆっくりと綻ぶ。
「俺は君の匂いが大層好みだからな! まあ嫌いな所などないが」
「杏寿郎さん……凄く嬉しいです」
いつもはっきりと自分の思いを告げてくれる彼の言葉を受け、安心感と幸福感が全身にじわじわと広がっていく。
再び口付けが届いた。
吐息と唾液を絡ませ合いながら、互いを求めていく。着ていた衣服を一枚ずつ脱がされる。
心臓の鼓動が速くなっていく中、私も彼の衣服を一枚ずつ手探りで脱がした。