第40章 彼を褒めれば笑顔に当たる ✳︎✳︎ +
「湯浴み、しましょうか。汗もたくさんかきましたし」
「そうだな…だがその前に」
トン……と私の体が優しく押し倒された。
「先程の労いをさせてくれ」
「労い…ですか?」
「新しい呼吸を完成させただろう?」
「あ、そうでしたね」
いつもと同じように彼の大きく温かい掌が私の左頬をゆっくりと撫でる。
「それと塗ってもらってわかったのだが、爪紅は案外手間がかかる。その手間を経て俺に見せてくれている労いもしたい」
「ん…」
言葉通り、労うような柔らかい口付けをくれる恋人。
「すみません、お願いがあるんですけど」
「なんなりと言ってくれ」
その返答に少し笑ってしまう。
「爪紅…また私に塗ってください。さっきも言いましたけど、杏寿郎さんは私が塗るより上手に塗ってくれるので…より一層、あなたとの時間を大切にしよう。そう思い…ん」
最後まで言い切る前に、優しい雨が一滴降って来た。
「毎回俺が塗っても良いぐらいだが」
私の10個の橙色にも、その優しい雨が数滴降ってくる。
「じゃあ…お願い出来ますか?」
私からも彼の橙色にそっと数滴、小さな雨を降らした。
「承知した」
「ん……」
今度は杏寿郎さんが私の唇にたくさん雨を降らす。彼からの口付けはいつも優しくて温かい。だからたくさんたくさん受け止めたい。