第40章 彼を褒めれば笑顔に当たる ✳︎✳︎ +
「緋色も橙色も…何色でも、君の爪紅は俺だけが独占したい」
「え……」
「子供みたいだな、と自分でも思う。しかしな」
「はい……」
私の両手がそっと彼の両手に包み込まれた。
「君が俺の手を綺麗と言ってくれるように、俺も君の手はとても綺麗だと思う」
「ありがとうございます…」
どうして彼が言ってくれる褒め言葉はこんなに力をくれるのだろう。
「杏寿郎さん」
「ん?」
声をかけると、彼は下に向けていた顔を上げて、私を優しい眼差しで見つめてくれる。
「今日はあなたがいつも私をたくさんほめてくれるから、お返しに私からもたくさん誉めようと考えていたんです」
「うむ、嬉しい事だ」
「でも結局いつもと同じように、私がたくさん褒めて貰ってしまいました…」
ありがとうございます…と彼の頬に口付けを贈った。
「七瀬、違うぞ」
「え……?」
ここだろう?と恋人の親指が私の唇をなぞったかと思うと、彼からの口付けが私のそれに届く。
「君からの口付けはここが1番嬉しい」
「ありがとうございます。それから…」
彼の爪先にも口付けを贈った。
「お揃い、とても嬉しいです。私のわがまま聞いてくれてありがとうございます」
「これはわがままの内には入らないが?」
私の爪先にも彼からの口付けが届く。