第40章 彼を褒めれば笑顔に当たる ✳︎✳︎ +
「すみません、これはちょっと門外不出…と言いますか、私以外には見せたくありません」
「無論、君以外に見せるつもりはないぞ」
唇に弧を描いて、綺麗に笑ってくれる彼にまた胸が高鳴ってしまう。
「七瀬、俺も君に塗って良いだろうか」
「え……?」
★
「案外難しいものだな…」
杏寿郎さんが私の爪先に橙色を先程から載せてくれている。
「慣れもあるんじゃないでしょうか…あ、でも上手ですよ」
「うむ、こんなものか」
彼が最後の小指を塗り終えた。ハケを容器にしまい、私の爪先をじっと見てくれる。
「私が塗るより綺麗です。やっぱり杏寿郎さんは繊細な作業も得意ですよね…」
彼の爪と同じ色が私の爪でもキラキラと輝いている。
「緋色も似合っていたが、君はこちらの色の方が良い。とても馴染んでいる気がする」
「そうですか?ありがとうございます!杏寿郎さんがそう言ってくれるなら、毎日塗ろうかな…」
弾む気持ちを抑えきれない。そんな心情でいると…
「毎日は困る」
「え……?」
「俺と2人でいる時だけにしてほしい」
ドクン、と心臓が高鳴る。
「君が爪紅を塗る時は俺に見てほしい時だろう?」
「…はい、そうです」
「うむ、であれば……」