第40章 彼を褒めれば笑顔に当たる ✳︎✳︎ +
触れるだけの口付けが一回私の爪先に落ちた後、彼は唇をそこに触れさせたまま、日輪の双眸でジッ…と見つめて来る。
「はい……」
真っ赤に顔を染めながら、私は返事をするしかなかった。
★
「色は橙色にします」
「承知した」
彼と2人、私の部屋にやって来た。文机に置いてある小さな容器を手に持ち、これまた小さなハケで容器の中の紅を少し取る。
「塗っていきますね」
「うむ」
心臓の鼓動がとても速い中、私は彼の右手を自分の左手に乗せる。そして綺麗な形の爪にハケを載せた。なるべくムラにならないように、丁寧に。丁寧に。右手が終われば左手も同様の作業。
「はい、全部塗り終えました…すみません、乾くまでしばらくそのまま指を伸ばしておいて下さい」
「案外手間がかかるのだな」
そうなんです…と私は言いながらハケを容器にしまい、改めて彼の爪先を見てみると……。
「杏寿郎さん…………凄く綺麗です」
「うむ…自分ではよくわからないが…そうか?」
「はい。やっぱり似合いますよ」
悔しいぐらいにね……。
私は恋人の両手をそっと持ち上げて、まじまじと見つめる。
形の良い爪に乗せられた10個の橙色がキラキラと輝いている。
それは例えるなら、日輪の指先。陽光が爪に宿っているようだった。