第38章 よもやのわらび餅
「……七瀬、先程俺は言ったな。任務前にあまりそう言う事を言うな、と」
確かに言われた。だけど……
「今、伝えたいって思ったんです。思いが熱い内に言いたいなって。”鉄は熱い内に打て”って言うじゃないですか…」
彼が1つ息をつくと、大きな掌が自分の頭の上に乗せられる。
「今日は警備地区の見回りだから、そんなに遅くはならないと思う。君の予定は?」
「蜜璃さんの警備地区の見回りに同行します。応援要請等がなければ、私も遅くはならないと思いますけど…」
「承知した。では……」
「ん……」
今度は彼が私の耳元で艶っぽい低音を響かせながら、囁く。
「………わかりました」
「うむ、頼んだ」
それだけ言うと、杏寿郎さんは私の頭を撫でて先に歩いて行ってしまった。
やっぱり敵わないなあ…
赤くなった頬をぺちっと軽く叩いて、私も千寿郎くんの待つ台所に向かった。