第38章 よもやのわらび餅
「綺麗な色だな。よく似合っている」
「ありがとうございます…でも緋色を塗るのはとても勇気がいるんです」
「そうなのか?」
「はい……」
緋色は鮮やかで力強い色。だから心が元気な時に爪に載せたい。
「八雲の羽織も青柳色で明るい色だけど寒色系ですし、普段の着物も橙色はあるけど、基本的に私の服は落ち着いた色ばかりなので。だから勇気が必要なんです」
「………」
私の爪紅を愛おしそうに見つめた彼は、そこに優しい口付けをまた落としてくれる。
「勇気を出して塗ってくれてありがとう。本当に嬉しい」
「いえ…。杏寿郎さんの為なら、私いつだって勇気は出せますから……」
彼の右手に顎を取られると、唇にも口付けが落ちた。
「ん……」
温かいぬくもりが離れると、今度は両頬を包み込まれる。
「任務前にあまりそう言う事は言わないでくれ」
「え…?」
日輪の双眸に柔らかく炎が灯った気がした。
「……君からますます離れづらくなる」
そのままコツンとおでこが当たる。
「は……」
「ん?」
両頬がゆっくり撫でられると、胸がきゅう…となった。
「いえ、なんでもありません」
私は慌てて喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
“離れないでほしい”
つい言いそうになった。