第37章 不機嫌な萌黄に八雲謝る、の巻
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例えば……その3。
「足元にも及ばない」
千寿郎くんの声が居間に響く。
次の瞬間———
スパン!……と取ろうと思っていた目の前のかるた札が、目にも止まらぬ速さで消えた。
「どうして、句を最後まで詠んでも杏寿郎さんは速いんですか…」
「う…む。取れてしまうとしか言いようがない」
調整してもこれ。
「調整」と言うのは当初千寿郎くんの呼吸音!だけで、その後詠まれるかるた札を正確に次々と取る杏寿郎さんに対し、私が「それは流石にずるい」と訴えた件だ。
そして、最後まで詠み終えてから札を取りに行くやり方に変更してもらった…と言うか、これが本来のやり方なんだけどね。
これで私にも勝てる好機が…と喜び勇んでいたら。自分のすぐ目の前にある札でさえも彼が奪い取ってしまい、変わらず勝負にならず。
私は「はあ……」と深い海の底に沈み込むような溜息を、ゆっくりと吐いた。