第37章 不機嫌な萌黄に八雲謝る、の巻
「聞いてない」
「あ…そうなんですね…」
聞いてない、聞いてない、聞いてない!!!
……けれども冷静に考えてみれば、あの寡黙な兄弟子が妹弟子とは言えども言うわけがない。
ふう、と一つ溜息をつけば沙希が大丈夫ですか?と心配してくれた。
「うん、大丈夫。ありがと。でも栞さんと冨岡さんが恋仲にね…」
「はい」
この栞さん、と言う人は私の2期上の女性隊士で沙希の姉弟子。使用呼吸は霧の呼吸で、水の呼吸の派生だ。
彼女は不死川さんの継子をしている。同じ女性の継子と言う事で、初対面から意気投合し、沙希同様私も姉のように慕っている。
「それで先日私、急に呼び出されて。用件、何だったと思います?」
「さあ………?」
佐伯栞さん。
思いこんだら一点だけに全集中する性質。だから時々彼女の考えがわからなくなる時がある。
いや、良い人なのだけどね。本当に。優しいし、可愛いし。
「どうしても水柱様にギャフンと言わせたい、あの無表情を必死にさせたい……と言って、稽古にほぼ無理やり参加させられたんです。私の力が必要だからって」
なるほど。